Komatsu’s Will: Section 01

タイ

「待ってたぞ、小松、頼むなー!」

2013年10月、彼女にとって初の海外出張だった。バンコク市内から東に約150キロ、プラチンブリに建設中の新工場で、駐在中の上司Kが迎える。プロジェクトリーダーとしての彼女のミッションは、世界初となる流動型セル生産方式〈ARCライン〉の実機検証と立ち上げだった。

Komatsu’s Will: Section 02

「なんで組立はこんなにロスが多いのだろう?」

きっかけは、Kの疑問だった。かつて担当していた溶接ラインでは、クルマの骨格ができあがるまでの一連のプロセスを部品一つ一つから考えるのが当たり前で、無数のロボットが一斉に作業する光景を見てきた。組立ラインでも、従来のベルトコンベア方式ではなく、複数の部品組み付けを行うセル方式ができないか?四輪量産としては、前例のない挑戦となった。

Komatsu’s Will: Section 03

Honda魂

「つくる喜びを心から感じてほしい」

ゆっくり移動する円形パレットに車体を載せ、4人1組のチームが、前後左右から同時に作業をする。部品は手元に自動配膳され、歩く動作がほぼなくなるため、組立効率は大幅に高まる。なにより、作業を広範囲にすることで、Hondaに息づく〈職人魂〉を継承していきたかった。

Komatsu’s Will: Section 04

「受け取ったバトンで最後まで走りきる」

作業者の負担が増えるのでは?と、社内には慎重論もあった。だが、やはりHondaはHondaだった。Kの思いに賛同者が少しずつ増え、鈴鹿と埼玉での検証を経て、タイの新工場への導入がきまった。彼女の率いるプロジェクトチームに、多くの仲間たちの夢が託されたのである。

Komatsu’s Will: Section 05

50秒→500秒

「さあ、ここからが勝負だ」

2014年の春。タイにつくりあげた検証ラインで、現地アソシエイト全員による、量産想定の実機検証が始まった。通常のラインでは、1人の作業者が数点の部品を取り付ける時間は50秒。ARCラインでは、パレットが組立工程の半周を移動する500秒で作業を行う。

Komatsu’s Will: Section 06

タブレット

「現場の人たちが安心して組立作業に専念できるように」

作業時間も取り付ける部品も、従来の10倍になる。アソシエイトたちには戸惑いや不安もあった。はたして、作業手順を正しく覚えられるのか? しかし、彼女のチームは動じない。タブレット端末の画面と音声で指示を伝える作業支援システムをつくり、実作業での調整を重ねた。

Komatsu’s Will: Section 07

量産開始

「なにがなんでも、やりきる!」

タイへの出張は4年間で20回近くにおよんだ。量産直前の段階では、想定した稼働率に達しないという問題が発生する場面もあった。ラインの信頼性をいかに高めていくか。原因を急いで特定し、対策を徹底的に講じていく。そして、2016年3月、ARCラインによる新型シビック量産開始の日を迎えた。

Komatsu’s Will: Section 08

俯瞰

「いくつものプロジェクトを束ねるために」

タイの新工場では、設備だけでなく人の働き方も含めた〈クルマづくりのあり方〉を再構築した。その経験は、グループリーダーになったいま、大きく活かされている。組織全体を俯瞰的に捉えることで、ヒト・モノ・カネの管理はもちろん、開発テーマをうまく推進させるのが彼女の役割だ。

Komatsu’s Will: Section 09

楽しく

「その子は、どうやりたいんだろう?」

ときおり、プロジェクトリーダー時代の癖が出かける。私ならこうするのに…。その思いをグッと飲み込む。自分も、失敗したり叱られたりといろんな経験をしてきたが、自由にやらせてもらえたからこそ、達成したときの喜びもひとしおだった。その環境を、こんどは自分がつくっていく番だ。

Komatsu’s Will: Section 10

好演

「以前とは違い、たくさんの部品を扱うけど、大丈夫?」

約1年ぶりにタイを訪ね、作業者にこう尋ねてみた。杞憂だった。「だって、こっちのほうがカッコイイだろ」と、誰もが笑顔で応える。彼女の提案による木目調の円形パレットは、回り舞台のごとく滑らかに動き、4人の主役たちは500秒間の輝きを放っていた。

PROFILE

小松彩絵子

車体生産技術部/車体組立技術

高校生の頃、Hondaが発表した世界初の人間型自律2足歩行ロボット〈P2〉に衝撃を受けた。大学の機械工学科に進学し、研究室で2足歩行ロボットを卒業研究に選んだほどである。〈P3〉を経て発表された〈ASIMO〉に招かれるかのように、Hondaの面接を受けた。入社後は、EG(ホンダエンジニアリング)の車体設備部門に配属され、四輪組立ラインの作業性改善や効率化のために、人型ではないがロボットを使った生産技術開発を手がけることになった。〈P2〉の開発コンセプトでもあり、自らの原点でもある「人の役に立つ」は、まったくブレていない。

Saeko Komatsu