Saito's Will: Section 01

着任

「いや、なるべくしてなったんだ」

それまでの3年間、役員室との戦略チームで新たなモノづくり・将来工場の姿を描き、不足要素としてキーとなる物流・検査・知能化など、IT技術を中心としたプロジェクトテーマの仕込みに躍起になっていた。さらに遡ると、トラブルや遅れで発足する組織横断の企業プロジェクトや特別プロジェクト(通称特プロ)に駆り出されては、一体感がある時のHondaの瞬発力と底力をまざまざと実感していた。そして気が付くと、IoT領域のリーダーになっていた。

Saito's Will: Section 02

…で、このデータどうするんだっけ?

「見えない部分をどう検査するか?」

とはいえ、一周回った段階で「?」と、戸惑っている会社も少なくない。一般的には、データを集めて見える化したものの、「なぜそうなっているのか」「どうすれば良くなるのか」と分析・活用できるナレッジを持つ社員は、生産工程の企画者など一部に限られるからだ。では、Hondaはどうなのか?

Saito's Will: Section 03

本質

「うちは、ナレッジの宝庫じゃないか」

モノづくりの不思議さは、図面や手順通りにやっても完成品が微妙に異なることだ。現場では日々問題と向き合い、各工程における無数の摺り合わせ、いわゆる三現主義によって品質を均一にしている。〈現場・現物・現実〉に〈本質〉も組み込むHondaにとって、「なぜ」「どうする」という意識は、全員の頭の中にある。

Saito's Will: Section 04

瞬時

「え? そんなところで自分の技が!」

まずは、バラバラに存在していた匠の知見と技を、IoTというツールで顕在化させる。すると、従来はごく近い範囲で共有されるだけでも十分にやりがいを感じていた自分の提案や技術が、前工程や後工程に好影響を及ぼし、更には海の向こうの工場の問題を瞬時に解決できたり、数世代先の商品図面を瞬時に最適化できたりする。

Saito's Will: Section 05

「Honda流のIoTでないと意味はない」

世界中の工場をつなぎ、各現場の強みをさらに引き出して、付加価値の高い仕事を生んでいく。Hondaの中で最も強みである現場の人がビジネスに貢献できる範囲を広げ、人の持つ素晴らしさを際立たせる。右手に技能、左手にデジタルツール。自ら使いこなし進化させ,人がイキイキと活躍する。つまり、彼がIoT戦略のリーダーとして目指すのは〈熱い血が通い、地に足が付き、圧倒的に実の詰まったアウトプット〉だ。

Saito's Will: Section 06

世界初

「こんなこと考えちゃったんですけど!」

かつて彼は、世界初のCVT(無段変速機)生産における制御システム開発を手がけた。約400の部品を重ね合わせる工程で、計測した一つ一つの微細な精度バラツキ状況を鑑みながら、多数の自動倉庫に振り分け、払い出しが途絶えないように全体最適化して組み合わせる。部品の状態を把握し、先を推測して洗い出すというアイデアが始まりだった。「頭のいい受け身のシステムだが、「本当にやりたかったのはライン全体の連携した攻めのシステムね」。その悔しさが、今の取り組みを後押ししている。

Saito's Will: Section 07

ボトムアップ

「よし、お前がやってみろ」

その開発もしかりだが、いい意味でハシゴを外される風土の中で鍛えられてきた。Hondaでは、「2階に上げてハシゴを外す」というコトバをよく使う。退路を断つ、という意味合いである。見捨てるわけではなく、従業員社員を尊重して自由に任せるという、提案型が徹底しているのだ。IoT戦略についても、目的と目指す方向性を受けた各プロジェクトは、ボトムアップで推進されている。かつての彼のようなリーダーがシナリオを描き、チームが具現化するアイデアと技術が、将来のHondaの強みをつくっていく。

Saito's Will: Section 08

バーチャル設計

「こうやれば成立するんじゃないの」

現在のフェーズは、工場の自律型進化と、電動化・自動運転化への対応という2つのテーマで、IoT関連プロジェクトがいくつも動いている。たとえば、造りの意思を詰め込んだバーチャル設計。個性ある商品の実現に向けて白紙に自由な絵を描くHondaらしく、製品図面をガチガチに縛るのではなく、造りのメカニズムをうまく反映し、攻めと守りのメリハリの利いたものができるはずだ。

Saito's Will: Section 09

不足

「道筋はひいているけど…」

彼が率いているのは、IoTと次世代運転担当として約100名。シナジー効果を発揮するために、部門横断で集まっている。その他に、生産本部や大きな工場に各十数人ずつ、という体制である。外部のエキスパートの力も借りているが、人材はまったく足りていないのが悩みだ。

Saito's Will: Section 10

目的

「もっとワクワクするようなクルマを」

IoTを使う目的は、ユーザーに届けるクルマの魅力を高めることに他ならない。瞬時に最良品ができるようなケタ違いの品質進化。圧倒的なデザインと乗り心地を持つような商品進化。それを驚くほどのスピードで実現していく。ハシゴをずんずん昇っていく同志を、彼は心待ちにしている。

PROFILE

齊藤浩二

車体生産技術部

子供の頃からクルマに憧れ、免許をとって初めて乗ったのがシビックだった。高専~大学院で実験主体のメカトロニクスを学んだあと、エンジンの魅力や操る楽しさを教えてくれたHondaへの就職を迷わず選んだ。入社後は、パワーユニット領域における、革新生産技術の開発者としてソフトウェア・アルゴリズム開発を基軸に、さまざまな経験をしてきた。「ありたい姿に向け、きれいごとを貫き、壁を壊していく」のがポリシー。それは、信頼できる仲間からの助けなしではできない。

Koji Saito