Shigehara's Will: Section 01

モヒカン

「デザインとして、どうなの?」

乗用車は通常、ルーフと左右のサイドパネルを接合した部分に、黒いラバー状のモール部品を装着している。その見た目から〈モヒカンモール〉と呼ばれる。スポット溶接の痕跡を覆い隠すために、常識とされてきた車体構造だ。ここに、Hondaは疑問を呈した。

Shigehara's Will: Section 02

ろう付け

「トライしてみようか」

ルーフとサイドのパネルを直接ろう付けしてしまえば、モヒカンモールは不要になる。該当部のデザインを、これまでにないすっきりと美しいものにできる。強度やコストなどについて研究所が検証する。それを実際に生産できるのか?EGの出番がやってくる。

Shigehara's Will: Section 03

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「遅すぎる!」

高温のレーザーで、ろうを溶かして溶接する。欧米の高級車で前例がないわけではなかった。どこも、設備メーカーの〈レーザーブレーズ〉装置に頼っている。それを購入するという選択はなかった。Hondaの要求する溶接スピードの、半分しか出せないからだ。

Shigehara's Will: Section 04

ムラ

「自前でつくるしかないな…」

2台の装置で左右同時に溶接すれば、スピードの問題は解決する。しかし、初期投資も2倍なる。各装置のコンディションによる、左右の仕上がりの微細なムラも懸念される。1台で要件を満たす装置を自分たちの手でつくるしかない。これは、いつものことである。

Shigehara's Will: Section 05

0.03ミリ

「レーザーを2本にしよう」

関係部門との検討を重ねた結果、解決の方向性は決まった。ろうの芯線に対して、前後からレーザー照射することで、劇的にスピードを向上させる。だが、2本のレーザーの重なり具合がシビアだった。技術部門から求められた公差は、0.03ミリだったのである。

Shigehara's Will: Section 06

寄居工場

「困難だから面白いんだ」

かつて彼は、Honda寄居工場のライン刷新に携わった。立ち上げ前後の約8か月にわたって、すべてを目にし、耳にすることができた。手がけたラインから、1台1台とクルマができあがっていく。生みの苦しみこそ、自分の仕事の醍醐味であると気付かされた。

Shigehara's Will: Section 07

量産性

「工場の人に使いやすいのか?」

寄居工場で一番学んだのは、この一言に尽きる。新しい装置となると、現場でのメンテナンスは容易ではない。公差0.03ミリでは、安定運用ができず、量産に影響を及ぼす可能性が大きい。仕上がりの質を落とすことなく、公差条件を緩和する方法を彼は探った。

Shigehara's Will: Section 08

自由

「オレが決めている」

仕様変更となれば当然、関連部署とのぶつかり合いはある。落としどころは必要だ。それでも、譲れないことがある。けっして自分を曲げない。やがて、味方が増えてくる。いつしか、やりたい放題になっている。他の誰にも、これをつくることはできないのだから。

Shigehara's Will: Section 09

正解?

「よし、また1つ失敗した」

HEGの一角に設置した設備において、レーザーの径や強さを微妙に変えながら、彼は実証試験を繰り返した。失敗データという宝の山がどんどん高くなっていく。初めての設備だけに正解はないが、結果としてできたものが正解だと信じられるかどうかが大切なのだ。

Shigehara's Will: Section 10

次のモヒカン

「また無茶なリクエスト来たな」

初期検討から試行錯誤すること約2年、ろう接合のラインが立ち上がった。国内8拠点で生産されるHondaの3車種から、あのモヒカンが消えることになったのだ。喜びに浸る間はない。期間1年、海外を含む10数拠点・4車種が、彼による立ち上げを待っている。

PROFILE

茂原良植

設備生産部/設備設計

大学院でソフトウェア情報学を専攻し、SIerへ就職して約6年勤続。周囲が見えるようになった頃、エンジニアとしての成長を期待させる機会の乏しさを覚えて転職を考え始める。Hondaの軽自動車・N-BOXの「ユーザーの声に耳を傾け・ユーザーを幸せにするモノづくり」の開発姿勢に強く共鳴すると同時に、「Hondaならきっと新しいチャレンジを望む自分の想いにも耳を傾けてくれる」と思って応募。2016年にHondaへ入社し、四輪R&Dセンター(栃木)にて自動運転車開発における開発業務に従事している。

Yoshinao Shigehara