Yoshida's Will: Section 01

逆提案

「金型をなくすことはできないか?」

研究所や工場からの要請で始まる開発と、EGからの逆提案で始まる開発がある。これは後者だった。従来は、大型の金型プレスでブランキング(打ち抜き)しているボディ部品を、レーザーで切り抜くことはできないか? コイル鋼板を止めない連続加工にすれば、深い床ピットも必要なく、機種交換の時間も短くできる。

Yoshida's Will: Section 02

Rテーマ

「この3つをクリアすればいいんだ」

欧州のレーザー関連メーカーと検証を重ね、高速カットのメドは立った。ここから検証すべきテーマは、〈カットの安定条件・レーザーの駆動・鋼板の搬送〉の3つである。2009年、開発スタートを意味する〈Rテーマ〉として、発案した先輩以下4名でのプロジェクトが始まった。

Yoshida's Will: Section 03

H社

「吉田さん、またお話をしまょう」

プレスでいく予定だったラインをレーザーに変える。この方針変更により、当初の設備を受注しかけていた協力会社H社にはストップがかかった。搬送装置には確かな知見を持つ会社である。だが、H社の担当者は、「自前でつくる」というEGの意志を尊重し、開発をそばで見守り続けた。

Yoshida's Will: Section 04

10G

「スペースシャトルでも3Gなんだけど…」

連続生産には、1.5m/secのスピードで流れていく鋼板を複雑な形に高速カットする必要がある。レーザーアームを高加速度で駆動しないと、加工時間が長くなる。計算で出てきた加速度は10G。アームの材質や形状、駆動モーターの機構への試行錯誤が続いた。初めて切れたのは、単純な2つの円だ。嬉しくてたまらなかった。

Yoshida's Will: Section 05

気概

「なあ吉田。完成させて世界を変えてやろう!」

試験ラインを持ち込んだ狭山完成車工場で、ある管理職がこう言った。長年のプレス加工からの変化による波風など恐れず、新技術という芽を幹に育てるのが仕事じゃないか! そんな現場の気概が、チームに勇気を与えた。試験ライン設置から約1年をかけて3つのテーマをなんとかクリアし、R段階は無事に完了した。

Yoshida's Will: Section 06

出鼻を

「ここまできたのに…」

いよいよ、導入に向けて量産設備の設計・製造・立ち上げに入っていく。設備を商品として具現化するメンバーが大量に合流して、チームの勢いもより高まる。ところが、設計が始まって間もなく、問題が発生した。材料の安定搬送を司るコンベアの耐久性に難があり、構造の見直しを迫られたのである。

Yoshida's Will: Section 07

ミス

「吉田さん、僕だって早く見たいですから」

R段階でもピンチがあった。7回作り直した高加速度駆動装置がモノになるという瞬間、自らの設計ミスで部品が組めない。すると、部品メーカーの担当者が、横浜から御殿場までクルマを走らせ、徹夜で加工し、翌朝に届けてくれた。そこにはあるのは、夢に共感し合う関係性だ。

Yoshida's Will: Section 08

2000対1

「はい。メンテナンス性で完敗です…」

今度もまた、救世主が現れた。あのH社が自ら予算を捻出し、レーザーブランキング向けの搬送装置をつくっていたのだ。差は歴然だった。EGのそれは部品が2000個あり、それぞれにネジやベアリングが付いている。対して、提案された装置の部品は、コンベアのベルト1本だった。

Yoshida's Will: Section 09

稼働

「スイスイと美しく動いてる」

その後も、鉄粉まみれで不具合の改良をした。そして2015年4月、世界初となるレーザーブランキングシステムが、寄居完成車工場に導入された。数か月かかる金型製作の期間が、プログラム加工により数日に短縮される。大量生産でコストを下げるという、クルマ生産の常識を変えたのだ。

Yoshida's Will: Section 10

「育ててくのは、生んだ者の責任だ」

このシステムは〈日本の自動車技術330選〉の栄光にも輝いた。言うまでもなく、過去の遺産になるには早すぎる。鉄だけでなくアルミにも、4輪だけでなく2輪にも、対応範囲を広げていきたい。北米をはじめとする海外展開も視野に入れている。きっと大丈夫だ。同志を次々と巻き込む、目もくらむ技術だから。

PROFILE

吉田慎

研究開発部

制御工学を学んでいた学生時代、自分の力以上に遠くまで、自由自在に行くことのできる自転車・バイク・自動車の存在にあらためて感動を覚えた。いつまでも一緒にいられる〈家族のようなクルマがつくりたい〉という感情が芽生え、人を大事にする本田宗一郎の会社で、夢を実現したいと思った。入社直後には〈家族のように一緒に作業できるアシストロボット〉開発に携われた。以来、クルマに限らず、思いを通い合わせられる設備づくりを心がけている。

Shin Yoshida